sunakochanの日記

頭の中で増大する文章の渦を整理する

ボクの記憶・後

バスはそのままボクの方に………。

 

「………‼︎‼︎」

 

それは幻影だった。

ボクは思い出した。

皆はもう死んでいる。

 

ボクたちが小学生の時に

今日と同じ修学旅行中のバスで……

 


ボクが通っていたT小学校の修学旅行は

毎年必ずこの町と決まっていた。

ボクが6年の時もそれは同じで…

最終日の市内散策でその惨劇は起こった。

児童を乗せたバスが、運転手の発作による

操縦不能で、鳥居に突っ込んだ。

運が悪かった。

3クラスあり、1クラス1台のバスに

乗っていたが丁度真ん中の2組のバスが

前のバスを追い抜いて角に突っ込んだため

残りの2台も巻き添えをくらい、

衝撃でエンジンが大爆発を起こし、

生徒、教師、運転手、バスガイド、

生存者ゼロの大事故になったのだ。

ボクはその修学旅行、流行性の病気にかかり

どうしても行けず、

その日の夕刊で惨劇を知った。

当時T小学校の6年で生きていたのは、

ボクと、

 

 

親戚の不幸で2日目から急遽帰った

Aの2人だけだった。

 


そうだあの時……あの時みんなは死んだ。

 

鳥居の周りの花は、彼らの命日である今日、

悲惨な事故で命を落とした彼らを悼んで

供えられた、花束だった。

 


ボクは泣いていた。皆が何かを言っている。

あぁ、拓也……祐樹……

志織ちゃん……緋奈ちゃん……優子先生……。

 


不意にボクの腕を掴んで

鳥居の中へと引っ張る力が強くなった。

どうしたの、

どうしてそんな怖い顔してるんだ?

そして直感した。

この鳥居をくぐってはダメだ!!!

力は強まる。

誰か助けて!!!A!!助けて!

 

周りの人はまるでボク達が見えていないかのように通り過ぎていく。

 


 

やめろ!死にたくない!!!

まだ死にたくない!!!

ボクは死んでない!!!!!!!

 


大きく抵抗をして手を振りほどき、

ボクを掴んでいた最後の一人の手が離れた。

ボクは一目散に集合場所である駅に

走って戻った。

誰も追ってこなかった。

 


駅に着いてボクはやっと

溜息をついて気を抜いた。

集合時間までは1時間程あり、

監視係の先生以外まだ誰も

駅に戻ってはいない。

茶店へ行くと、A達と当番を終えた先生が

座って談笑していた。

ボクはホッとした。

よかった…ボク、生きてる。

みんなのところに駆け寄った。

「ただいま!A!先生!」

Aは一瞬悲しそうな顔をして、言った。

 

「帰って、来たんだね。」

 

どういう意味かわからなかった。

 

Aが、先ほど皆がボクに向けたような悲しそうな顔をこちらに向けているのが、

こちらまで悲しくなって、

それでいて、無性に腹立たしくなった。

「なんで!なんでそんな顔するんだよ!

やめろよ!もしかして……」

 

もしかして本当はAもあの事故で死んでいて、

本当は、とっくの昔にこの世にいないのでは。

だからこんなに悲しそうなのだろうか?

だからさっきの皆みたいな

顔をするのだろうか。

Aもまた、皆がボクにしたように

あちらの世界へボクを連れて行こうと

するんじゃないだろうか。

一度考え出すともう止まらない。

先生達さえも、

この世の人ではないように思えてきた。

 


怖い……怖い怖い怖い怖い!!!

 


「A!お前も死んでいるんだろ!

だからそうやってボクのことを

引き込んでしまおうとするんだろ!」

 

僕は一気にまくし立てた。

 

「そうやってさっきの皆みたいに

悲しそうな顔して!先生も!

本当は死んでるんだろ!もう嫌だ!

ボクは死にたくない!!!」

 


ハァハァ……一気に怒鳴って息が上がった。

 

Aは相変わらずの表情のまま、口を開いた。

 

「大丈夫。俺は死んでないよ。

先生は、初めからいない。

そして、死んでるのは、お前の方だよ。」

 


瞬間、色んな映像が頭の中を駆け巡り、

ひとつの記憶に纏まった。

 


記憶の中の僕は、確かに死んでいた。

修学旅行の惨劇があった翌年、

中学生に上がったボクは

一度に大勢の仲間をなくしたショックもあり、

新しい環境に馴染めず学校を休みがちだった。

 


そんなボクを見かねた両親は、

ボクを、亡くなった皆への追悼もかねて、

彼らの命日に、家族旅行という名目で、

あの鳥居のところに連れて来てくれた。

 

 

ボクはここへ来ていたのだ。

だから懐かしいと感じたのだ。

 

そしてボクの一家はその帰り、

惨劇の時と同じ場所で

同じように事故を起こして死んだ。

 

ボクは、死んでいた。

 


「そっか…」ボクの乾いた声だけが響いた。

辺りを見回すと、Bも、先生も姿はなく、

もはや彼らがどんな人で

どんな顔をしていたか、覚えていなかった。

それもそうだ。

ボクは高校には入っていないのだから。

 

Aは泣いていた。

 

ボクはもうここには居られないと感じた。

行かなくちゃ…。

 


走って、皆の元へ戻った。

大きな鳥居と建物は、

無残にも取り壊され空き地となっていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 


ーーーーーピッーーーーーピッーーーーー

 

 

目を開けると白い天井が見えた。

白衣を着た人たちが忙しなく動き、

ボクの周りを埋め尽くす機械が

無機質な音を立てている。

 

………生き……てる?

 


隣には、Aの姿が

 

 

 

ピッーーーーーーーーーーピッーーーーーーーーーーピーーーーーーーーーー

 


「本当に死んだのは、お前じゃないか」

 

 

どうやら、ボクの一家の旅行の車には

修学旅行で多くの友人を失った

失意のAも同乗していたらしい。

 

 

 

3年間の昏睡を経て、ボクは目を覚まし、

Aは息を引き取ったことを聞いた。

年齢的には高校生だ。

 

 

 

話すことも、

起き上がることもできない。

理解してくれる家族も、いない。

 

 


今、自分が生きてるのか死んでるのか、

 

ボクにはもう、わからない。

 

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